「熱帯と群衆」
室外機がキリキリと夜を同期する
離れ離れに供給され続ける室内が消費されゆく
暑くるしい窓の外を金魚鉢が覗く
アスファルトはいまも熱を溜めて
うごく綿毛のようで猫
緑はむせ返るほど呼吸を繰り返し
風がそれぞれの終わりをかき混ぜるから
夏の表面は溢れずに循環を見せている
自然ならぬ高音に満たされた熱帯に
声は細い管を通って、冷えたまま届く
あるいはおおく冷え切って
無かったことにされ続ける臭気
街灯に虫が弾けて、潤う空気に鳴く
わたしは汗ばむTシャツの中で夕食を温める
冷えた細い管の中で声がやり取りされてゆく
ひとつ、またひとつ
室外機がキリキリと夜を同期する
つめたい気泡に熱帯は分かたれて