「木の少年」
少年は停止していた、木を演じていた
舞台の上で物語を繰り広げる級友たちを目の前に、観衆の視線を集めるともなく見られながら、木であった
少年はこれは自分のためにある役だと思った
それからというもの、昼休みや放課後に時間を見つけては木になった
静止する視界の中で、友人たちが動く、少年にはそれがちょうど良かった
そんな時間がずっと続けば素敵だろうなと考えていた
声が変わって、少年が大人になってからも、彼は木を演じることを好んだ
暖かい日差しの中で、あるいはせわしない雨の中で動き回る生き物や機械の姿は愛おしく、飽きることはなかった
彼はずいぶん長く生きて、それでも木を演じることが好きだった
自分はそういう形をしているのだと、そう思っていた
来る日も来る日も彼は木のように
朝には鳴く鳥たちを、昼は食事を摂る働き者たち、夕方には駆ける子供たち、そして夜には揺れる星や街の明かりを眺めていた
雨が降り、日がさして、また嵐が来て、花が咲いたころ
彼らが涙して埋めた生き物が、茂みの虫が、土に還るころ
そして、すべての風が止み、太陽が静かに白いころ
彼はそれを眺めていた、彼は木になっていた