「桃」
桃、モモ、ももも、桃・桃、もももも…!
冷蔵庫で冷やしておいて、桃を食べる
桃はとてもおいしい、これはうまい
桃が何かといいますと
まずは嬉しいものであります、口に入れて潰してみれば、諒解されるたぐいのものです
あまずっぱい水滴が集まった、そういう無重力の果実であって、桃源郷とはよく言ったというような夢見心地な香りが、こう、目にも鼻にも届いてきます
姿形と言いますと
表面には嘘みたいにびっしりと、わざわざ産毛が生えている
ちょうど赤子の尻のような、かあいらしい匂いの血の気を帯びた表面であります
しかし、相手はやはり果物、もぎ取られた後であるので、指でグッと押してやると弾力もないままに挫傷するのでゾッとします
明くる日に見れば黒く腐りかけたりするでしょう
案外に不気味な表面をズルッとむいたらば、仕掛けは明瞭で、おびただしい繊維が白い果肉を伴って水気を抱えております
根のように張り巡っているから保たれている、当たり前に有難いなりたちで、綿密なそれをガムリとやれば、オロロと滴って、溢る、そういった塩梅です
ああも繊細そうなものが、夏のものというのが愛おしい
明けては、うだる暑さに濃厚すぎるほど妖しく香って
暮れては、夜風よりもずっと水気たっぷりに果肉は冷気をため込んでおります
それをいそいそと、冷蔵庫から取り出して、大袈裟にも包丁をグルリと入れます
コツンと硬い種を一周したらばグイと捻り、すると純粋な果肉が手の中にあります
その不安定な水気の均衡を壊さないように、指先で皮を剥いてやって、スイと切り分けて、皿に乗せてゆきましょう、花のようにひらげた格好がより一層、楽しげ
ああ、もう、桃が食べたい
桃、モモ、ももも、桃・桃、もももも…!
うれしい、うれしい、桃の季節
冷蔵庫で冷やしておいて、それから、それから、ああ愉快!