「悪夢」
321
2021/05/23
ベッドが逃げたので三日三晩眠らずに追いかけました
なんせベッドがないので眠れない
このベッド以外に眠るところを持っていないもので
失ってはならないと分かっています
お隣さんは浴槽が逃げたそう
大通りには観葉植物が駆け抜けてゆき、角で本棚とエアコンがぶつかりました
椅子、ゲーム機、革靴、トランペット、カーテンに礼服、オーブンに花瓶、楽しげな広場
ゆく先々で満たされないままの欲望が走り回る中で、欲望のまま追いかける人たちの姿
絶対にこうではない
絶対にこうではない
絶対にこうではない
三日三晩が過ぎる頃、誰も知らない大きな軒先でベッドは立ち止まりしました
ぐちゃぐちゃになった体で飛び込んで泥のように寝ました
ベッドで眠ることの嬉しさを思い
ベッドで後悔のない爽快な朝を迎えることを思い出しました
これが嬉しい
これが嬉しい
これが嬉しい
ベッドの上で目覚め、すると家には何もなく、最後のおたまが逃げてゆく後ろ姿がみえました
わたしはまた走り出しました